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方向補語の中国語文法解説|語順・種類・派生義の整理
方向補語とは?話し手の視点と基本概念
中国語の補語には複数の種類がありますが、その中で最も空間的なイメージをつかみやすいのが方向補語(fāngxiàng bǔyǔ)です。動詞の後ろに接続し、「動作がどちらの方向に向かって進むか」を具体的に示します。
方向補語の核となる「来」と「去」の視点ルール
方向補語を理解する上で最も重要な基準は、話し手の立ち位置(視点)です。動作の主体が誰であるかに関わらず、「話し手(あるいは話題の中心点)に対して近づいてくるのか、遠ざかっていくのか」で用いる単語が決まります。
- 来(lái):話し手のいる位置へ「近づく」動作を表します。
- 去(qù):話し手のいる位置から「離れる」動作を表します。
たとえば、話し手が部屋の中にいる場合、外にいる人に向かって「入ってきなさい」と呼ぶときは进来(jìnlái / 入ってくる)を使います。反対に、話し手が部屋の外にいて「中へ入りなさい」と指示する場合は、話し手から見て遠ざかる方向になるため进去(jìnqu / 入っていく)を使います。
このように、同じ「入る」という動作であっても、話し手がどの場所に立っているかによって補語が来になるか去になるかが客観的に決まります。中国語ではこの視点の区別を厳密に行います。
来(lái)
- 話し手のいる位置へ近づく動作
- 例:部屋の中から「进来(入ってきなさい)」
去(qù)
- 話し手のいる位置から離れる動作
- 例:部屋の外から「进去(入りなさい)」
話し手の位置を基準に、近づくか遠ざかるかで「来」と「去」を使い分けます。
視点に応じた使い分けを基礎から確認したいときは、中国語「来」と「去」の方向動詞の使い分けも役立ちます。
単純方向補語と複合方向補語の一覧
方向補語には、1文字で方向を表す「単純方向補語」と、2文字を組み合わせて複合的な方向を表す「複合方向補語」の2段階があります。
単純方向補語を構成する8つの動詞
単純方向補語は、基本となる来と去のほかに、空間的な移動方向そのものを表す以下の8つの基本動詞から成り立ちます。これら自体が動詞の後ろに置かれて補語として機能します。
- 上(shàng / 上がる・近づく)
- 下(xià / 下がる・降りる)
- 进(jìn / 入る)
- 出(chū / 出る)
- 回(huí / 戻る・帰る)
- 过(guò / 通る・渡る・超える)
- 起(qǐ / 起きる・持ち上がる)
- 开(kāi / 開く・離れる)
複合方向補語の組み合わせ一覧表(全15種)
上記の8動詞に「来」または「去」を組み合わせたものが複合方向補語です。移動の軌跡(上下・内外・復帰など)と、話し手への近接・離反(来・去)を同時に表現できます。
表は横にスクロールできます →
| 移動の性質 | + 来(近づく) | + 去(離れる) | 主な意味のニュアンス |
|---|---|---|---|
| 上(上方・接近) | 上来(shànglái) | 上去(shàngqu) | 上がってくる/上がっていく |
| 下(下方) | 下来(xiàlái) | 下去(xiàqu) | 降りてくる/降りていく |
| 进(内部) | 进来(jìnlái) | 进去(jìnqu) | 入ってくる/入っていく |
| 出(外部) | 出来(chūlái) | 出去(chūqu) | 出てくる/出ていく |
| 回(復帰) | 回来(huílái) | 回去(huíqu) | 戻ってくる/戻っていく |
| 过(通過) | 过来(guòlái) | 过去(guòqu) | こちらへ渡る/あちらへ渡る |
| 起(立ち上がり) | 起来(qǐlái) | — | 起き上がる(※「起去」は存在しない) |
| 开(分散・離脱) | 开来(kāilái) | 开去(kāiqu) | 散らばり寄る/散らばり去る |
「起去」という組み合わせが存在しない理由
一覧表で確認できるように、起には起来が存在するものの、起去という表現は存在しません。これは中国語の空間概念において、「起」が「下から上へ立ち上がる・視界に現れ出る」という性質を持つためです。
人や物が立ち上がったり出現したりする現象は、話し手の視野や意識の前面に「向かって現れる」ベクトルを持つため、必然的に近接を表す来と結びつきます。視界から遠ざかり消えていくベクトルを持つ去とは論理的に矛盾するため、「起去」という語彙は中国語に存在しません。
各動詞の詳しい組み合わせ一覧は、中国語の方向補語(単純・複合)で解説しています。
目的語の語順ルール比較と判定フロー
方向補語の学習で学習者が最もつまずきやすいのが、「目的語をどこに置くか」という語順のルールです。目的語が「場所」なのか「事物・人」なのかによって、語順の配置基準が明確に分かれます。
判定基準1:目的語が「場所」の場合は補語の間に挟む
目的語が部屋、学校、家、北京などの場所を表す名詞である場合、語順は必ず「動詞 + 場所 + 来/去」になります。場所名詞を来や去の後ろに置くことはできません。
- ○ 回家去(huí jiā qu / 家に帰っていく)
- × 回去家(非文:場所を末尾に置いてはならない)
- ○ 跑进教室来(pǎo jìn jiàoshì lái / 教室へ走って入ってくる)
- × 跑进来教室(非文)
- ○ 上山去(shàng shān qu / 山に登っていく)
- × 上去山(非文)
この規則は例外がありません。場所に向かって移動する場合は、終着点となる場所名詞を方向補語の「来/去」の手前に配置します。
判定基準2:目的語が「一般的な物・人」の場合
目的語が本、荷物、水などの事物名詞である場合、配置パターンは2通り存在します。
- パターンA(補語の後ろに置く):動詞 + 複合方向補語 + 目的語
例:他带回来了一份礼物。(tā dài huílái le yí fèn lǐwù / 彼はプレゼントを1つ持ち帰ってきた。)
動作がすでに完了している場合や、目的語に数量詞(一份など)が付く場合は、この語順が極めて自然です。 - パターンB(補語の間に挟む):動詞 + 上/下/进/出など + 目的語 + 来/去
例:他带回一份礼物来。(tā dài huí yí fèn lǐwù lái / 彼はプレゼントを1つ持ち帰ってきた。)
これから行う動作や命令文などで頻繁に用いられます。
目的語の配置が一目でわかる判定まとめ
表は横にスクロールできます →
| 目的語の種類 | 語順の型 | 例文 | 可否 |
|---|---|---|---|
| 場所(家・学校など) | 動詞 + 場所 + 来/去 | 回 宿舍 去(寮へ帰る) | ○(必須) |
| 場所(家・学校など) | 動詞 + 方向補語 + 場所 | 回去 宿舍 | ×(不可) |
| 事物(本・荷物など) | 動詞 + 方向補語 + 事物 | 买 回来 一本书(本を買って帰る) | ○ |
| 事物(本・荷物など) | 動詞 + 回等 + 事物 + 来/去 | 买 回 一本书 来(本を買って帰る) | ○ |
迷ったときは、「場所なら必ず来・去の前」「物ならどちらでも可(迷ったら補語の直後に数量詞+物)」と整理すると判断が容易になります。
文全体の基本構造から見直したい場合は、中国語の語順のルールも参考になります。
否定文と疑問文の正しい作り方
方向補語を用いた文を否定文や疑問文にする場合、助詞や否定詞を置く位置に規則があります。
否定文の基本:動詞の前に「没(有)」を置く
方向補語が表す動作は「動作が行われ、その結果移動が生じたかどうか」を問題にするケースが多いため、否定文では基本的に没(méi)または没有(méiyǒu)を本動詞の前に置きます。
- 他没有走出来。(tā méiyǒu zǒu chūlái / 彼は歩いて出てこなかった。)
- 我还没买回来那本书。(wǒ hái méi mǎi huílái nà běn shū / 私はまだあの本を買って帰ってきていない。)
日常会話で「入ってこないでください」のように禁止や依頼の否定を述べる場合は、别(bié)や不要(búyào)を動詞の前に置きます。
疑問文の3つの基本パターン
方向補語の疑問文は、一般的な文法手順に沿って以下の3つの形式で作ることができます。
- 語尾に「吗」を付ける形式
他回去了吗?(tā huíqu le ma / 彼は帰っていきましたか?) - 文末に「没有」を付ける反復疑問形式
他走出来了没有?(tā zǒu chūlái le méiyǒu / 彼は歩いて出てきましたか?) - 正反疑問文(動詞を重ねる形式)
你带没带雨伞来?(nǐ dài méi dài yǔsǎn lái / あなたは傘を持ってきましたか?)
語尾に「吗」
- 他回去了吗?
文末に「没有」
- 他走出来了没有?
正反疑問文
- 你带没带雨伞来?
疑問文は文末に吗を置く、没有を置く、動詞を重ねるの3形式で作れます。

物理的移動を超える!重要な派生義まとめ
方向補語は、実際の空間移動だけでなく、時間の経過、状態の変化、認識の深まりなどを比喩的に表す派生義(引申用法:yǐnshēn yòngfǎ)を持っています。HSK4級〜6級の読解や自然な会話表現において不可欠な知識です。
1. 起来(qǐlái):開始・推測・収集
起来は派生義の中で最も多用される組み合わせです。主に3つの意味合いを持ちます。
- 動作・状態の開始と継続(〜し始める)
動作が突如始まり、そのまま続いていく状態を表します。
听了他的话,大家都笑了起来。(tīng le tā de huà, dàjiā dōu xiào le qǐlái / 彼の話を聞いて、みんな笑い出した。)
天气渐渐热起来了。(tiānqì jiànjiàn rè qǐlái le / 天気がだんだん暑くなってきた。) - 評価・推測(〜してみると)
動詞の直後に付き、「見るところ」「聞くところ」「食べた感じ」を表します。
这道菜看起来很好吃。(zhè dào cài kàn qǐlái hěn hǎochī / この料理は見ためとても美味しそうだ。)
说起来容易,做起来难。(shuō qǐlái róngyì, zuò qǐlái nán / 言うのは容易だが、実行するのは難しい。) - 集中・分散したものを集める(まとめる・片付ける)
请把散落的玩具收起来。(qǐng bǎ sǎnluò de wánjù shōu qǐlái / 散らかったおもちゃを片付けてください。)
2. 下来(xiàlái)と下去(xiàqu):時間軸と状態の違い
下来と下去は時間の流れや動作の継続を表しますが、視点の方向性に明確な違いがあります。
表は横にスクロールできます →
| 表現 | 時間・状態のベクトル | 意味 | 典型的な例文 |
|---|---|---|---|
| 〜下来 | 過去から現在へ至る / 激しい状態から静止へ | 〜してきた / 落ち着く | 这个传统一直流传了下来。(この伝統はずっと受け継がれてきた。) 请大家安静下来。(皆さん静かにしてください。) |
| 〜下去 | 現在から未来へ向かう / 動作がそのまま進行する | 〜し続ける | 请你继续说下去。(どうぞそのまま話し続けてください。) 坚持下去就是胜利。(やり続けることこそが勝利だ。) |
3. 出来(chūlái):顕在化・判明・達成
見えなかったもの、隠れていたものが表面化したり、感覚を通じて判明したりすることを表します。
- 识别・看破(〜して分かる)
我认出他来了。(wǒ rèn chū tā lái le / 私は彼だと見分けることができた。)
你想出办法来了吗?(nǐ xiǎng chū bànfǎ lái le ma / 解決策を思いつきましたか?) - 無から有を生み出す(作り出す)
这本小说他一个月就写出来了。(zhè běn xiǎoshuō tā yí ge yuè jiù xiě chūlái le / この小説を彼は1か月で書き上げた。)
4. 过来(guòlái)と过去(guòqu):意識の正常と異常
意識や健康状態の変化を表す際、正常な状態に戻る場合は过来、正常から異常(意識喪失など)へ向かう場合は过去を使います。
- 病人慢慢醒过来了。(bìngrén mànmàn xǐng guòlái le / 患者は徐々に意識を取り戻した=正常へ回復)
- 听到这个坏消息,他晕过去了。(tīng dào zhè ge huài xiāoxi, tā yūn guòqu le / その悪い知らせを聞いて、彼は気絶してしまった=異常へ移行)
動作が突如始まり続く(〜し始める)
見るところ・聞くところ(〜してみると)
分散したものをまとめる・片付ける
「起来」は開始だけでなく、推測・評価や収集の意味も表します。
次の疑問派生義のような抽象的な表現をもっと深めたいときは、中国語の補語の総まとめで結果補語や可能補語との使い分けも確認できます。
そのまま使える!超頻出セットフレーズ20選
方向補語は、日常会話で定型句のようにそのまま使われる組み合わせが無数にあります。よく使われる20の実用フレーズをまとめました。
物理的移動を表す日常フレーズ10選
- 走过来(zǒu guòlái / こちらへ歩いてくる)
- 跑过去(pǎo guòqu / あちらへ走っていく)
- 带回来(dài huílái / 持ち帰ってくる)
- 寄过去(jì guòqu / 郵送して送る)
- 站起来(zhàn qǐlái / 立ち上がる)
- 坐下来(zuò xiàlái / 腰を下ろす・座る)
- 拿出来(ná chūlái / 取り出す)
- 放进去(fàng jìnqu / 中へ入れる)
- 走上去(zǒu shàngqu / 歩いて上がっていく)
- 爬下来(pá xiàlái / 這って降りてくる)
比喩・派生義の重要フレーズ10選
- 看起来(kàn qǐlái / 見たところ〜のようだ)
- 听起来(tīng qǐlái / 聞いたところ〜のようだ)
- 想起来(xiǎng qǐlái / 思い出す)
- 想出来(xiǎng chūlái / 思いつく・アイデアを生み出す)
- 说下去(shuō xiàqu / 話を続ける)
- 静下来(jìng xiàlái / 静まる・落ち着く)
- 停下来(tíng xiàlái / 立ち止まる・停止する)
- 坚持下去(jiānchí xiàqu / 持ちこたえる・やり続ける)
- 记下来(jì xiàlái / メモして記録に残す)
- 醒过来(xǐng guòlái / 目が覚める・正気に戻る)
理解度チェック!方向補語の練習問題ドリル
ここまでの知識が定着しているか、以下の練習問題で確認してみましょう。空欄補充と語順並べ替えの2形式です。
第1問(空欄補充)
話し手はビルの1階にいます。3階にいる同僚に「降りてきてください」と頼む場合の適切な補語はどれでしょうか。
请你( )。
A. 下来(xiàlái)
B. 下去(xiàqu)
C. 上来(shànglái)
D. 上去(shàngqu)
【正解】A. 下来
【解説】同僚の移動方向は3階から1階への下方移動なので「下」を用います。そして話し手は1階にいるため、同僚は話し手に向かって「近づいてくる」ことになります。したがって「来」と組み合わせた下来が正解です。
第2問(語順整序)
次の語句を正しく並べ替えて、「彼は学校へ走っていった」という文章を作ってください。
語句:[ 跑 / 他 / 学校 / 去了 ]
【正解】他跑学校去了。
【解説】「学校」は場所名詞です。目的語が場所の場合、「動詞 + 場所 + 来/去」の配置にする必要があります。「跑去学校」の語順は文法的に誤りとなるため、必ず場所である「学校」を「去了」の前に配置します。
第3問(派生義の判別)
次の日本語に合うように空欄に適する語を選んでください。
「困難があっても、私たちは勉強を続けていかなければならない。」
即使有困难,我们也要学( )。
A. 起来
B. 下来
C. 下去
D. 过来
【正解】C. 下去
【解説】現在行っている勉強という動作を、未来に向かって維持・継続させる意味合いであるため、下去を用います。「下来」は過去から現在への継続や静止を表すため不適当です。
続けて読む
理解度チェック
Q1. 中国語の複合方向補語で「起去」が存在しない理由は何ですか?
- 文法上、去は目的語を直接取れないから
- 起は離れる動作のみと結びつく性質があるから
- 起の出現の性質が離れる去と矛盾するから
- 発音がしにくく話し言葉で淘汰されたから
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正解: C. 起の出現の性質が離れる去と矛盾するから
起は視野に現れ出る性質を持ち、近づく来と結びつきます。遠ざかる去とは論理的に矛盾するため起去は存在しません。
Q2. 目的語が「家」などの場所を表す名詞の場合の正しい語順はどれ?
- 動詞 + 来/去 + 場所
- 動詞 + 複合方向補語 + 場所
- 動詞 + 場所 + 来/去
- 場所 + 動詞 + 来/去
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正解: C. 動詞 + 場所 + 来/去
目的語が場所名詞の場合、語順は必ず「動詞 + 場所 + 来/去」となり、場所を末尾に置くことはできません。
Q3. 派生義で動作を「現在から未来へ継続する」ことを表す補語は?
- 起来
- 下来
- 出来
- 下去
答えを見る
正解: D. 下去
「〜下去」は現在から未来へ向かう動作の継続を表します。「〜下来」は過去から現在への継続や静止を表します。
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よくある質問
- Q. 方向補語の「来」「去」は軽声で発音しますか?
- 複合方向補語や動詞の直後に付く「来」「去」は、一般的に本来の第2声・第4声ではなく、軽く短く「軽声」で発音されます。ただし語順の間に目的語を挟む場合など、文脈によっては本来の声調が保たれることもあります。
- Q. 「想起来」と「想出来」の違いは何ですか?
- 「想起来」は忘れていた過去の記憶を「思い出す」ことを指します。一方「想出来」は、それまで存在しなかった新しいアイデアや解決策を「頭の中から生み出す・思いつく」ことを表します。
- Q. 完了の「了」は方向補語のどこに置きますか?
- 動作の完了を表す「了」は、基本的に方向補語の末尾に置きます(例:带回来了)。ただし、目的語が方向補語の間に入る場合は「動詞+回+事物+来了」のように文末に添えるか、動詞の直後に置くこともあります。
- Q. 方向補語の前に助動詞(想や要など)を置けますか?
- はい、置くことができます。「我想走出去(私は歩いて出ていきたい)」のように、「助動詞 + 本動詞 + 方向補語」の語順になります。助動詞が補語の直前に割り込むことはありません。
2026年9月25日更新・モチタン辞典編集部